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父のゴミ屋敷が家族に与えたストレスと再生の記録
父は、長年勤め上げた会社を定年退職してから、急に気力を失ったようでした。母が亡くなってから一人暮らしをしていた実家を、久しぶりに訪れた私は愕然としました。リビングには新聞や雑誌が山と積まれ、キッチンには食べ終えた食器が放置されたまま。かつて几帳面だった父の面影はどこにもなく、家は明らかに「ゴミ屋敷」への道を歩み始めていました。その日から、私と弟のストレスに満ちた日々が始まりました。週末ごとに実家に通い、片付けを試みるのですが、父は「これはまだ使う」「勝手に捨てるな」と激しく抵抗します。私たちの説得は、父にとってはただの非難にしか聞こえないようでした。片付けを巡る口論は絶えず、親子関係は日に日に悪化していきました。私たち家族は、世間体が恥ずかしいという思いと、父の健康が心配だという思い、そして何もできない無力感という三重のストレスに押しつぶされそうでした。このままではいけない。私たちは藁にもすがる思いで、地域の包括支援センターの扉を叩きました。そこで専門のケースワーカーの方に相談する中で、父の行動が単なる老化や頑固さではなく、認知症の初期症状である可能性が浮上したのです。診断の結果、父は軽度のアルツハイマー型認知症でした。判断力の低下が、モノを捨てられないという行動に繋がっていたのです。原因が分かったことで、私たちの向き合い方は大きく変わりました。非難ではなく、サポートへ。私たちは、ケアマネージャーや専門の片付け業者とチームを組み、父の気持ちに寄り添いながら、少しずつ家の整理を進めていきました。物理的に家が綺麗になるにつれて、不思議と父の表情も穏やかになり、私たちの間の会話も増えていきました。父のゴミ屋敷が私たち家族に与えたストレスは計り知れません。しかし、それは同時に、私たちが父の病と向き合い、家族の絆を再確認するきっかけともなったのです。